痔の手術は必要か

痔というのは肛門の病気全般をさす言葉なので、今回はその中でも一番多い痔核(いぼ痔)についてのお話。

究極の選択は『手術したくなければしなくても良い』である。
ただ、痔核がどんな症状であるかによって、選択肢も変わってくる。
急に腫れて痛むような、血栓性外痔核やかんとん痔核は薬の治療で治る。
画像

【急に肛門の一部が「ぷくん」と腫れて痛むのが、血栓性外痔核】


画像

【肛門の広い範囲で腫れて戻せないのが、かんとん痔核】


手術するかどうか迷うのは、脱肛である。
腫れていないのに排便時や、時には長時間歩いた時に肛門の外に『いぼ』のようなものが出てくる。
画像

【いきむと脱出するのが、脱肛】


画像

【押し込むときれいに戻るのも、脱肛の特徴】


排便習慣や生活療法の改善によって、症状が無くなることも多いけど、『上手く付き合う』必要がある。
「いぼ痔と付き合うのは嫌だ」
と考えるなら、切り取ってしまうのが手っ取り早い。

ちなみに、保険診療で排便や生活習慣の改善のために長時間説明をしたところで、余計の診察費はいただけないので、勢い手術に傾くのは医者の良心に任されている現状がある。

医者が「切らなきゃ治らない」と言った痔が、切らずに治った。という「患者さんの喜びの言葉」を載せている、有名な通信販売の薬の類は、血栓性外痔核やかんとん痔核を『切らないと経営上問題がある』と判断した医者の事情もあるのではないかと、私は疑っている。
画像

『ぢ』ってなぁに:まじまりまじまり

みなさま、あけましておめでとうございます。
お久しぶりですDr.OKです(^^)v

この正月休みはどのようにお過ごしだったでしょうか?
Dr.OKの場合は、医者になって初めての6日連続休みだったので、ここは心機一転、痔の勉強をやり直すことにしました。
何で肛門科医になって30年以上も経つのに『勉強をやり直す』かというと、肛門病学の分野にはエビデンス(科学的な根拠)のない『言い伝え』のようなものがとっても多いからです。

その昔、大先生が
「傷を全部縫ってまったら、どえりゃあひどい目に合ってまったでかんわぁ」
(標準誤訳すると「手術で傷を全部縫ってしまったら、とっても危ない目に合って、大変苦労した」)
なんて言うと、その言葉が単なる個人的な経験であっても、弟子の間で代々伝わって
「痔核の手術後の傷は、肛門の外に十分なドレナージ創を作らなければならない」
なんてことが、手術教科書にも必ず載ってしまうのです。
肛門の外に、必要以上の大きな傷をつけられた患者さんは大迷惑。
シャワートイレはしみるわ、自転車には一か月以上乗れないわ…

そこで正月休みを機に心機一転『一年の計は元旦にあり』とばかりに、国内外の医学論文を読み漁り始めました。
自分が学んだ事は人にしゃべりたくなる性格なので、今日からしばらくの間、『ぢ』についての解説をシリーズで始めます。

-----------------------------------------------------------------------------------------
ある日の肛門科の外来
Dr.OK:今日はどうされましたか?
患者さん:『ぢ』が悪いのです。
このやり取りで分かることは、患者さんの多くは『ぢ』というものは一つの病気だと思っているという事です。
ちょうど、老舗洋食や「たいめいけん」に入って
ウエイトレスさん:何になさいますか?
お客さん:洋食にします。
と言っているようなものです。
ここで『たんぽぽオムレツ』にします。と言えば、ウエイトレスさんもニッコリ。

話が飛びましたが、要するに『ぢ』(痔とかく)は一つの病気ではなく、肛門に関する病気の総称なのです。
代表的なものに痔核(いぼぢ)裂肛(きれぢ)痔瘻(あなぢ)の三つがあり、最初に男女とも『ぢ』の患者さんの約半数にある痔核について、ぽつぽつと書いていきます。
画像


【脱肛するいぼ痔に合併する切れ痔は治らない】


痔核が大きくなって肛門の外に出るようになると、まれに痔核の根元に傷ができて切れ痔(裂肛)を合併することがあります。
裂肛の大部分は薬の治療で治りますが、脱肛合併の裂肛は排便するたびに傷が引っ張られて裂けるので治りません。
今まで痛くなかった脱肛が戻す時に激痛を伴うようになったら、薬の治療の限界です。

【便潜血だけで大丈夫?】

健康診断で行われている検便。昔は寄生虫検査が主目的でしたが、最近は大腸癌の早期発見のための便潜血反応(便に含まれる血液を調べる)が行われています。
それでは、毎年便潜血検査を受けたら大腸癌は完全に予防できるのかというと、そうではありません。大腸癌(それも、進行癌)のうちの1割が、便潜血反応では見つからないといわれています。

肛門から出血する、お腹が張る、お腹が痛む、便の調子がおかしいなど、何か大腸癌を疑わせる症状があれば健康保険を使って(3割負担の方で7000円程度)大腸内視鏡検査を受けることができます。
ご心配な方は、ぜひ一度大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。

特選!Dr.OKのまじめなおしりのはなし58 肛門科消滅の危機?①

日本の保険医療制度は、世界に類を見ない
『国民のだれもが平等に、世界最高水準の医療を安価で受けることができる』
という優れた制度である。
患者さんは、どこの医療施設でも自由に受診できることを原則としているのだが、近年その制度が高騰する医療費の原因にもなっていると考えられている。

たとえば『朝起きたら、ちょっと頭が痛い』としよう。
Dr.OKなら、薬箱の頭痛薬を飲んでみる。
人によっては、近所のかかりつけのお医者さんに診てもらう。
極端に心配性で『そういえば、伯母さんは脳出血で手遅れになったんだ』なんて経験の
ある人は、速攻脳外科にかかり「MRIを撮ってくれ」と要求する。

脳外科の病院も大枚はたいてMRIを導入したばっかりだし、
「万が一にも患者さんの要望に従わずに大変な病気を見逃したら訴訟問題だ。」
なんてことでMRIを撮ると、保険から数万円が支払われることになる。

似たような例は、どの診療科でも起こっている。
国民の人口構成が若者の多いうちはまだ良い。
病気になりにくい若者が月々たくさん保険料を納めてくれて、保険を使う病気しがちなお年寄りは少ないという、昔の日本の姿である。
最近は、お年寄りが多く若者が少ない。
バリバリ働いて保険料を納めてくれる若い世代が少ない割に、病気になって保険を使うお年寄りの割合が高い、現在の日本の状況である。

今までと同じような体制では保険医療制度が資金面で苦しくなるので、まず考えれるのは
『軽い病気は自分で治せ』
という方針。
昔は胃潰瘍の特効薬だったガスターが、容量の少ないガスター10(病院では20を使う事が多い)を薬局で売るようになったのも、この一環である。

次に考えられるのは、
『何でもかんでも大病院行ったらあかん』
という方針。
最近、病院では紹介状がないと数千円の特別料金がかかるようになったのも、この一環である。

ではここで…
おしりが腫れて痛くなったらどうするか?
① テレビで『痔ぃにぃ~は、ボ〇〇ノォルゥ』とCMが入ったので、薬局に行ってさっそく購入。
② いつもかかっている内科の先生に相談したら『これつけなさい』と診察もせずに処方された薬を塗ってみる。ちなみに保険診療で薬局で買うより安かった。
③ 意をケッして『肛門科』という文字が看板に書いてある医療機関を受診して、肛門の診察を受ける。

ここでどの選択を取るかで、患者さんの運命が変わる事もあるので、要注意である。
(続く)

特選!Dr.OKのまじめなおしりのはなし 57:便秘なのに下痢

「お腹が張ってすっきり出ません。便秘です」
と患者さんが訴える。
「いつから出ていないのですか」
と私が質問する・
「毎日、何回も出ています。下痢なんです」
「???」

このように、下痢便が一日何回も出るのにすっきり出ない場合、一番多いのは『糞便栓塞』である。
要するに、直腸に大きな便の塊ができて肛門を通過することができず、少しずつ溶けた便が何回も出ているわけである。
患者さんは、下痢便をすれどもすれども便意がなくならず、時には肛門の奥に痛みを感じる。

こんな場合、浣腸をしても効果は期待できず、便を指で掻き出す『摘便』が必要である。
ちなみにDr.OKは、指が長いので摘便を得意技としている(^^)v

もう一つ
「少しずつ便が出るのにすっきりしない。浣腸しても便が出ない。」
という症状で忘れてはいけないのが大腸がんです。

S状結腸や直腸のような肛門に近い部位の大腸では便が固まっていますから、大腸がんによって狭くなっていると塊の便が通過することができず糞便塞栓と同じように『少しずつ溶けて泥のような便が繰り返し出る』という症状が生じます。
それに加えて出血を伴っていると、肛門に最も近い直腸がんである可能性も高くなります。

そのような症状がある方は、急いで大腸内視鏡検査か注腸造影検査を受けてください。

写真は、注腸造影検査の写真です。矢印の部分の腸(S状結腸)が狭くなっています。

画像


特選!Dr.OKのまじめなおしりのはなし 56:今年の大腸肛門病学会

11月7日と8日に横浜で日本大腸肛門病学会学術集会が開かれる。
痔関係の病気を扱う最大の学会なので『年一回のお祭り』のようにワクワクする。

見物するだけでは面白くないので、今年も発表をすることにした。
演題は『閉鎖式結紮切除術の功罪』である。

痔核閉鎖式結紮切除術は、痔核を切り取った後の傷を縫ってふさぐので、術後の出血や痛みが少ない理想的な手術だと考えられるが、実際に行われている手術はそんなレベルで討論できるような代物ではない。
今までのやり方だと、柔らかい粘膜を縫うものだか、ほとんどの場合傷が治るより先に傷が開いてしまって、結局のところ一か月以上傷が治らない。
それを持って『閉鎖式結紮切除術は、熟練した技術が必要』などという言葉でヨシとしてしまっているところが大問題だと思う。

そもそも、痔核という病気は非常にありふれた病気だから、外科医であれば皆が手術を試みる。
大都市のように、信頼できる肛門科専門医が多い地域なら紹介するのも可であろうが、地方の中核病院の外科が好き好んで遠方の肛門科開業医に紹介するはずもない。
様々な手術の合間をぬって年間に数例痔の手術をしたところで、永遠に『熟練した技術』なんて身につくわけがない。
だからいつまでたっても『下手な閉鎖式結紮切除術』が横行し、何も知らない患者さんは「こんなものだろう」と痛むおしりを我慢している、これこそが『罪』というものであろう。

昨年から、そのような状況に一石投じるつもりで、誰でもできる閉鎖式結紮切除術の工夫を、「学会でビデオを使って紹介しているのであるが、なにせ制限時間内に短く編集されたビデオを見せられても理解が不十分で、まさに暖簾に腕押し。
そこで一計を案じ、演題申し込みの抄録の最後に、Youtubeにアップした手術のURLを記載しておいた。
編集段階で削除されてしまうかと思いきや、昨日手に入れた学会プログラムには、堂々と
『発表ビデオの詳細は
http://www.youtube.com/watch?v=zKAYk7AAtjk
でご覧になれます』
と掲載されているではないか。
今年こそ、活発な議論が巻き起こる事を期待して止まない。