南側は、一キロ先まで続く田んぼ。
初めて手に入れた2階の自室の窓からは、風になびく稲穂が、まるで海を進む大型船のデッキから見ている波のようで爽快だった。
そんな、のどかな時代。
まだサムターン回しなどという物騒な話は聞いた事はなかったが、時代を先取りしていた住宅メーカーは、錠を二重に取り付けた。
錠が二つあれば、その頃から慎重派の高校生OKは、キッチリ二つかけて外出するのが習慣となった。
ある日、外出から帰って錠を開けようとした。
メインの錠は、難なく開いた。
次に、サブの錠にキーを差し込んで回そうとしたが回らない。
ドアの向こうでは、まだちっちゃなトム君が、お腹を空かせて、哀れっぽい声で鳴いている。
しばらく努力したけど、どうにも空かない。
その当事はまだ、『鍵の110番』のような、緊急開錠サービスをしているところもなかったと思う。
「これは窓を破って入るしかない」
と覚悟を決めたけど、新しい設計で大きな窓ばかりで、一枚ガラスを割ったら大変な額になりそうだ。
少なくとも、月5000円のお小遣いでは払い切れそうもない。
家中を回って窓を確かめたところ、2階の自室の窓は小さな天窓がついていることに気がついた。
その当事、まだまだスマートだった高校生OKは、物置の屋根から軽々と家の屋根にわたって(とはいえ、スチール製の物置の屋根がちょっち凹んだのは秘密にしておいた)自室の窓に近づいた。
外の物音に気づいたトム君は、ダッシュで窓の近くに待機。
庭で拾っておいた石で小さな天窓を割って手を入れ、窓を開錠してようやく家の中に入った。
問題の玄関のドアを見に行くと、サブの錠には、サムターンが回らなくなるような小さなボタンがついていて、なぜか押された状態になっていた。
「誤作動したんだろう」
と思って、さっそく住宅メーカーに連絡して、交換してもらって一件落着。
「新しい錠でも、はじめから故障している事があるんだ。保障期間のうちに壊れていて良かったね」
と、両親とも話をして納得していたのだが・・・・
おまえ~、こんな事していたのかぁ!!
この記事へのコメント
秋
でも、高校生 OK はすごく身軽だったのですねー。
トマト
私の家は5階建ての公団の3階。3階と4階の間の階段踊り場から身を乗り出し、幅40cm程度のひさし(少し斜めに下がってる)を伝い歩き、ベランダへ軽くジャンプ。
無事降りられたから良かったものの、失敗してたら骨折でした。若さゆえの、根拠のない自信と能天気さが今となってはオソロシイ(;^_^A
先生の方がまだ安全そうですが、部屋の中に飛び散ったガラスを掃除するのは大変だったでしょうね(^^;)
Dr.OK
身体的にも、精神的にも若かったんですね(^-^)