戦友

社会保険中央総合病院勤務も残るところあと2週間。
お得意様の患者さんにも、おおむね挨拶は終わったところで、栃木からAさんがやってきた。

「虫の知らせさあって、今日来てよがったぁ~。来月だったら会えなかったところだぁ」
「お久しぶりですねぇ、4ヶ月ぶりですか・・・」
「Sさんから聞いたけど、病院辞めちまうってほんとか?」
「ええ、3月いっぱいで辞めます」

皺に囲まれた大きな瞳がみるみる潤んでくるのがわかる。
「いやぁ、最近涙もろくなっちまって」
「辞めるっていったって、すぐ近くの駅で診療していますから」
「そだな。毎月お地蔵さんの縁日に行くから、帰りに寄ってくか」
「保険証忘れずに来てくださいよ」
湿りがちな空気を打ち消そうと、精一杯軽口をたたいてみる。

AさんもSさんも、同じ時期にDr.OKが手術した大腸癌の患者さんだ。
再発の可能性も懸念されたが、何とか無事で術後5年以上過ぎ、『癌は手術によって根治』と判定できた患者さんである。
病気の発見から手術後の経過まで、包み隠さずにはなし、不安と希望を共有したいわば『戦友』のような間柄。
その後も連絡を取り合いそろって来院される事が多く、外来通院が戦友会のような役割を果たしているようだ。

「これ、今朝採った小松菜だ。洗ってないから泥だらけだけど美味しいから・・・」
帰り際にいただいた大量の小松菜を、中華味の炒め物にして食べた。
薄味のしょっぱさが、ちょうど涙のようだった。


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この記事へのコメント

ヘボ
2006年03月16日 10:14
心にしみる一編…ありがとうございます。
2006年03月16日 20:51
きっと、もう二度と会うことのないだろうお年寄りから「先生のおかげで、長生きさせてもらっています」と言われると、胸がつまる思いです。

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